逢萊祀(おらいし)は福井県今立町に伝わる小正月の行事である。今立市は福井県嶺北地方の中央部にある武生盆地の東端に位置する。その中の粟田部地区は農業を営む一方でその地理的条件などから、この地方一帯の商業や交易の中心地として栄えた地区である。かつてこの行事は有力商人などの地区の財産家の中からくじ引きで当番を決めて、その当番を中心に行事が行われてきた。現在では、この粟田部地区の氏神である岡太神社の氏子で長老格の男性から構成される岡太神社敬正会と、地区の壮年層の男性を中心とする粟田部地区壮年会を中心として行われている。五穀豊穣や無病息災、国家安寧を祈願して餅花、御幣、鏡餅などで飾り付けをした山車を作り、その山車を地区内で引き回すのがこの行事の主な内容である。その由来については諸説あるものの、この粟田部地区には継体天皇が即位する前に、男大迹皇子の頃にこの地にいたという伝承が残されているために、この行事は継体天皇の行幸を模してはじめられたものとも、三里山を中国の神仙思想で説かれている蓬莱山に見立てて山車を作り祝った事が始まりともされている。近世においては、蓑笠を着用しての山車の見物が禁止されているほど厳格に行われていた行事であった。山車の前で祭典が行われた後に、赤い頭巾と羽織を付けた音頭取りと呼ばれる二人の長老がそれに乗り込む。山車は大勢の男性に引かれて神社を後にして太鼓を乗せた囃子屋台に先導されて、山車に乗り込んだ音頭取りの唄う木遣り歌に合わせて粟田部地区をにぎやかに回っていく。山車を引くとその年は病気をしないといわれており、各町内では山車が回ってくると人々は引き手として加わるのだという。また、それぞれの町内では栗の小枝に餅を付けたものが配られるそうだ。山車は氏子総代の家を宿として休憩をとりながら各町内を巡り、最後に岡太神社に戻り、終わりを迎える。