今年も、王様の季節がやってきた。

蟹ってなんでこんなにうまいんだろう。
よく「漁場で水揚げ直後にその場で食べるのがいちばんうまい」というけれど、通販で取
り寄せた蟹だって、充分すぎるほどおいしくいただける。
通販番組とか見てると、よく売り文句として「蟹の王様、たらば蟹!」、「かにの王様、
ずわいがに!」「カニの王様、毛ガニ!」……ん? 毛ガニはあんまりそういう表現され
ないかな?
とにかく、要するに自分らの売りたい種類のかにを勝手に「王様」呼ばわりして持ち上げ
ようとしている。
しかし、ほんとうのほんとうに蟹の王様と呼ぶにふさわしいのは、ただ一種。
ずわい蟹のなかでも、福井の海が誇る秋冬の味の結晶、越前がに。
これに限るのだ。誰が何と云おうと、断固そうなのである。
異論があるならかかってきなさい。その口に、このまたとない三国の海の果実をほおりこ
んで黙らせてやるから。
もちろん、たとえばタラバや毛ガニとは違うというなら判るが、松葉と越前で違いをどう
こういわれても、それはただ単に獲れる漁場の地名によってブランド化しているだけのこ
とで、要するに同じずわい蟹なのだから違いなどあるわけなかろう、とおっしゃる向きも
あるだろう。
さよう、たしかに松葉も越前も同じずわい蟹だ。しかし、ひとが育つ環境によってさまざ
まな個性を持つように、福井の海で育った蟹と、ほかの北陸で育った蟹とでは、やはりそ
の持つ肉のうまみが違ってくるのだ。だからこそ、松葉蟹はさらに京都丹後や兵庫や島根
など、それぞれの港によってこまかく漁港名によるブランドの細分化がなされている。
いっそのこと、間人蟹とか津居山蟹とか、ひとつひとつの漁港を訪ねてはその味を堪能し
て回る、ずわい蟹めぐりをしてみるのも、時間とお金に余裕があるなら大いに楽しい旅行
となることだろう。
そしてそういう道楽の果てに、きっと知ることになるはずだ。
さまざまな地方のずわい蟹を味わい尽くしたからこそ判ること̶̶それはやはり、最後に
行き着くのは越前蟹にほかならないのだ、ということを。
あの繊細な甘みと芳醇な味の広がりは、たおやかではあるがどこか淡白な松葉蟹にはな
い、越前蟹ならではの味わい深さなのである。
11月6日、越前蟹、解禁。
今年も、王様の季節がやってきた。