たべたいなあ、今年も。

越前ガニが解禁された。
駅に行けば、福井に誘うポスターが貼られ、あの赤い偉容が湯気をあげている写真を見
る。ラジオを聴けば、通販で、このおいしさがなんとこの価格で、などとやっている。雑
誌をひらけば、漁場へ足を運んでその場で頬張るのが最高、なんぞとあおってくる。
行かねば、と思う。
が、今年はたぶん無理だ。仕事がたてこみすぎて、とてものことにカニだけのために旅路
につく、なんてことはできそうにない。
行ける年は、必ず行って、芳醇な海の果実を味わうのをならいとしている。
時期がくると、うずうずしてくる。からだが、カニを覚えている。
でも今年は無理なのだ。
必死にこらえる。我慢をする。すると、そのぶん魂に力がこめられて、来年のカニはより
深く味わえる……ような気がする。
食べたい時に食べたいだけ食べられるような気軽な食材とはわけが違うのだ。味わうな
ら、魂をこめて味わうべきだろう。だったら、この我慢も滋養になるのかもしれない。
越前ガニよ、待っていろ。
来年は、きっと行くから。
タラバにも松葉にもない、お前にだけあるあの甘みを、しっかりその身にたくわえて、
待っていておくれ。
……畜生、たべたいなあ、今年も。