舌にやきつけておきたい味

せいこがにの漁期は短い。

ズワイガニ漁自体は前年の11月6日に解禁され、翌年の3月20日まで続く。福井で越前ガニと呼ばれる雄のズワイガニはその漁期いっぱいまで楽しめるわけだが、雌ガニである「せいこ」は、通常1月10日に早々と漁期を終えてしまう。

しかも今シーズンは、資源保護のためにさらに10日間の短縮が実施された。つまり、去年の大晦日にはもう漁期が終了してしまっているのだ。

なんとも惜しい話である。年明けから、本当の意味での新鮮なせいこは食べられなくなっているわけだ。いませいこをどこかで口にできるとすれば、冷凍されてかなり時間が経っているものだろう。良心的な店や通販サイトでは、扱い自体をすでに中止している。

越前ガニが冬の福井の味覚の王者であることは確かだが、せいこもまた、充分に魅力的食材である。地元ではむしろせいこのほうが、一般家庭の食卓には定着しているようだ。

せいこはだいたい20~25センチくらいだろうか、越前ガニに較べれば少々小さめのからだのなかに、絶佳、と呼ぶべき身をたたえていて、決して越前ガニにひけをとらないものである。

何より、雄の越前ガニでは味わえない、雌ガニならではの“味の宝物”を、せいこは持っている卵だ。

おなかに抱えている受精卵は外子と呼び、おなかのなかの卵巣部分は内子と呼ぶ。

外子は口中でとろけるようなまろびやかな味わいがあるし、内子のうまさはそれに勝って《赤いダイヤ》と呼ばれるほどである。これだけは、雄である越前ガニでは絶対に真似のできない領域だ。

とはいえ、卵だけがせいこの価値というわけではもちろんない。

小さな体躯にしっかりつまったミソもまた、存分に舌を楽しませる。

それをゆっくり味わったあと、甲羅の中に少しミソを残した状態で日本酒を注ぐ。

これがまた、絶品なのだ。

五臓六腑にしみ渡るとはこういうことをいうのだと、からだ全体で教えてくれているよう

な気がしてくる。

これほどに魅力のつきないせいこがにが、例年より10日も早く禁漁期に入ってしまった。

資源保護が目的であるということは、こういう調整をしているからこそ毎年かにを味わうことができる、ともいえるわけで、業界の配慮には感謝するべきかもしれない。

かもしれないが、しかし、惜しい。

惜しいが、まあ、あまりそのことばかり云いつのっていては、越前ガニにひがまれる。

せいこが味わえない分、越前ガニのうまさを、今年の春先はしっかり舌にやきつけておくとしようか。