海は楽しいけれど…

暑い夏になれば多くの人々が海へ出掛け、楽しい時間を過ごすことだろう。寒い冬でも、多くの人々が海で釣りを楽しむだろう。砂浜や波間、魚たちといった美しい光景、そしておいしい魚介類と、海は人々にとって楽しく魅力的な場所である。
しかしその一方で、海には危険な一面もあることも人々は知っている。泳いでいれば潮に流されるかもしれないし、毒のある生物に触れてしまうかもしれない。釣りをしていれば、天候の悪い時なら波にさらわれる危険がある。今回はそんな危険のひとつ、毒のある生物に触れてしまった知人の話を紹介したいと思う。私の夫は釣りが趣味で、よく我が家へ集まっては同僚たちと釣りに出掛けていく。趣味と言ってもまだ数年の経験しか無いので、いか釣りに行くキス釣りに行くと言って出掛けては何も獲れないか餌となるアジだけといった成果で帰ってくるのが殆んど。それでも「だめだったー」と言いながらもにこにこと楽しそうに皆帰ってきていた。
しかし、ある冬の始めの日、福井の海から帰ってきた夫達の笑いが、いつもの「楽しかった」という笑いではないときがあった。どうしたのかと訊ねると、同僚の一人が変な魚に触って指が大変なことになったのだと皆で笑いながら話しだした。
その“変な魚”は、触れて指が大変なことになった同僚Aが釣り上げたのだが、釣り上げてすぐ「何だこれ!?」とつい言ってしまうような怪しい風貌だったそうだ。声を聞いてなんだなんだとAの元へ皆駆け寄りその魚を見てみると、小ぶりで黒っぽい、なまずのような変わった魚。皆「これは触ったらヤバイやつだ」と感じたため、触らないようにして海に帰そうとしたのだが、口から針を取るためには触ってしまう危険を冒さなければならない。針を取ろうと四苦八苦するうちにうっかりヒレに触れてしまったというわけだ。それからしばらくしてAは「指が痛い」と言い出した。痛みに弱い方ではないAだったが、それでも釣りを続けることなど到底無理というような痛みだったため、Aはその後ずっと車中で待機することになってしまった。夫が様子を見に行って見たのは、「暖めるとマシになる」といって車の暖房に手を当ててすっかりしょげているAの姿。そんなAを置いて釣りを続けられないと、釣りはそこでお開きとなった。
帰りの車中でもテンションが上がらず暖房に手を当て続けているA。普段明るくお調子者のAがすっかりしょげかえっているので皆思わず笑ってしまったというわけだったのだ。
Aが触ってしまった魚は一体なんだったのか?帰宅した夫が調べてみると、どうやら“ゴンズイ”という魚らしい。夫たちが「ヤバイ」と感じたとおりヒレに毒を持ち、触ると激痛に襲われるという魚だった。酷い場合は呼吸困難にも陥ってしまうというので、痛みだけで済んだAは幸運だったといえるだろう。医者に行くのが一番だが、なんと薬用入浴剤をお湯に溶かしてにつけると解毒できて痛みが引くという変わった応急処置方が効果的だそうだ。そして、食べるとおいしいらしい。美しいバラに棘があるように、おいしいゴンズイには毒があるということなのだろうか…。
海にはゴンズイの他にもクラゲやガンガゼのように毒を持った危険生物が多く生息している。海を安全に楽しむためには、こうした生物に対する知識と対処法を身につけておく必要があるだろう。